軸の蒔絵は高砂の浦の松と住吉の松が老夫婦の姿となって旅の若い神官が高砂の浦に通りかかったときに現れ、話をする場面である。蒔絵は高砂の浦の松林と翁(男老人)の面だけを描いている。
物語は高砂の浦の松と住吉の松が距離を隔てて夫婦であることを語りながら、夫婦の情愛が永遠であることを朝日の中、若い神官に語ることによって生命の輝きと永遠性を表現している。
キャップの蒔絵は若い貴族に恋をした潮汲みの姉妹が貴族が去っていった後、亡霊になってなお思い続けて浜辺で舞っている姿を旅の僧が見かける物語である。
蒔絵は舞台が同じ海岸であることと人の情愛が夫婦で長く続く片思いでも思い続けることの不思議さを面白いと思い場面を切り取って表現してみた。
松風の方は月夜、高砂の方は朝日、同じ金ぼかし梨地技法を使って浜辺を表しているが、金に塗り込む漆の色によって夜と朝日の違いを表現している。同じように松に使った螺鈿の貝の裏彩色に緑を塗るか銀箔を貼るかで朝と夜の見え方の違いを表している。
能は動作を究極に削ぎ取り感情表現をできる限り抑えることで逆に見る人の内なる想像力を引き出し感じ取る日本独特のパフォーマンス芸術である。その心の一部でも蒔絵で表現できていれば幸いである。